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「我が国の経済安全保障・国家安全保障の未来を左右する新興技術」 -合成生物学とニューロテクノロジー研究における米中覇権争いの幕開け- (令和3年度外交・安全保障調査研究事業費補助金(調査研究事業))

本研究は、人類の将来に大きなメリットとともにリスクをもたらすと考えられている、新興技術である合成生物学とニューロテクノロジーを対象として、それらが日本の経済安全保障と国家安全保障に及ぼす影響を分析し、今後の日本がとるべき外交政策に資することを目的として、令和2年度からスタートした。

合成生物学研究は、これまで米国と英国が先導し、バイオエコノミー戦略の一環として、産業化やビジネス化に向けた研究開発を推進してきた。米国は、国防面においても、合成生物学をR&Dの最優先事項の一つとしており、DARPA(国防高等研究計画局)、IARPA(情報高等研究計画活動)、米陸海空軍の研究所等で、DOD(国防総省)が考える将来の戦闘、作戦、ロジスティックス等に関するニーズを踏まえた、実用的かつ革新的な研究を行っている。

一方、中国においては、科学技術の軍民融合を推進し、国家科学技術戦略「中国科学技術イノベーション第13次五カ年計画」において合成生物学を重要技術と位置づけ、合成生物学分野での民生および軍事研究に巨額の予算を投じるとともに、当該分野の人材の育成を戦略的に行ってきた。中国人民解放軍は、合成生物学を含むバイオテクノロジーの軍事利用の可能性を真剣に考えており、CRISPR-Cas9に代表されるゲノム編集ツールを使った研究が盛んに進められている。この結果、今や中国は、米国に肉薄する勢いで、合成生物学研究のトップランナーの地位を築きつつある。

ニューロテクノロジー研究に目を向けると、米国においては、1970年代前半からDARPAにより、BCI(ブレイン・コンピュータ・インタフェース)に焦点を置いた研究が進められてきた。その後、2013年から、NIH(国立衛生研究所)を主軸とする、連邦政府としての大規模かつ戦略的なニューロサイエンス/ニューロテクノロジー研究プログラムであるBrain Initiative(ブレイン・イニシアチブ)がスタートした。本イニシアチブには、NSF(全米科学財団)、DARPA、IARPA等もメインプレーヤーとして参加しており、ニューロテクノロジー研究においても、米国が、民生・軍事両面で最先端を走っている。

一方、中国においては、2016年から、AI研究の進展を踏まえて「中国脳計画」を立ち上げ、中国人民解放軍の主導により、「軍事知能化」という概念の下、BCIによる人間の脳とマシン知能との融合を目標とした研究が検討されている。

DODは、中国人民解放軍が主導する合成生物学およびニューロテクノロジー研究の流れを受けて、BHPC(健康&ヒューマンパフォーマンス・バイオテクノロジー評議会)を立ち上げ、脳を含めた人間とマシンの融合による「サイボーグ兵士」の実現に向けた調査研究を実施し、2019年に、サイボーグ技術の2050年導入に向けて提言を示した報告書を公表した。

こういった状況を踏まえ、米国内でも、中国の軍民融合による合成生物学およびニューロテクノロジー研究が米国の安全保障に与える影響を分析し、それへの対策の必要性を表明する研究者や専門家が現れてきた。中国は、既に、米国と並んでAI大国としての地位を築いているが、合成生物学やニューロテクノロジーにおいても、国際経済及び国防の両面で、「必ず世界をリードする」という意思が大きく働いているように見受けられる。米国は、この中国のメンタリティに対して、これまで以上に脅威を感じている。

令和2年度は、初年度の作業として、経済安全保障の観点から、民利用を中心とした合成生物学研究とニューロテクノロジー研究の特徴を俯瞰的に理解し、整理することを目的として調査を実施した。また、本調査研究の一環として、国内外の合成生物学研究者・有識者およびニューロテクノロジー研究者・有識者を当所主催の勉強会に招いて、講演頂いた。

令和3年度は、前述した、軍事分野における合成生物学およびニューロテクノロジー研究を取り巻く背景を踏まえて、国家安全保障の観点から、軍事利用を中心とした両技術に関する研究の特徴を俯瞰的に理解し、整理することを目的として調査を実施した。また、本調査の一環として、国内外の合成生物学研究者・有識者、ニューロテクノロジー研究者・有識者に加え、国内外のELSI(倫理的・法的・社会的問題)の専門家を当所主催の勉強会に招いて、講演頂いた。

本報告書は、以上の背景を踏まえ、公益財団法人未来工学研究所が実施する3年間の調査研究事業「我が国の経済安全保障・国家安全保障の未来を左右する新興技術」の2年目の調査研究で得られた成果等について、中間報告書の形としてまとめたものである。

令和3年度の調査研究は、以下のメンバーによって実施した。

【主 査】 多田 浩之 未来工学研究所政策調査分析センター主席研究員
【メンバー】 伊藤和歌子 未来工学研究所政策調査分析センター特別研究員
  山本 智史 未来工学研究所政策調査分析センター研究員

令和4年5月6日
主査 多田 浩之

令和3年度外交・安全保障調査研究事業費補助金(調査研究事業):「我が国の経済安全保障・国家安全保障の未来を左右する新興技術」-合成生物学とニューロテクノロジー研究における米中覇権争いの幕開け-中間報告書(抜粋)

2022年05月08日 更新
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